トラックチャーター契約で見落としがちな法的リスクと対策マニュアル

2026年02月10日 物流
トラックチャーター契約で見落としがちな法的リスクと対策マニュアル|株式会社トラバース

物流業界において、特定の荷物を迅速かつ確実に届けるための「トラックチャーター契約」は、多くの企業にとって欠かせない輸送手段です。しかし、日々の業務効率を優先するあまり、契約内容の確認がおろそかになり、知らぬ間に重大な法的リスクを抱え込んでいるケースは少なくありません。

特に近年は、物流の2024年問題を背景とした法改正やコンプライアンス意識の高まりにより、契約書の不備や曖昧な取り決めが、企業の存続さえ脅かす大きなトラブルへと発展する事例が増えています。「万が一の事故が発生した際、損害賠償責任はどちらが負うのか」「待機時間の費用負担は適正か」といった点を曖昧にしたまま業務を進めることは、将来的な損失に直結しかねません。

本記事では、トラックチャーター契約において見落としがちな法的リスクを徹底的に洗い出し、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策をマニュアル形式で解説します。契約書の不備が招く損失の事例から、下請法違反を回避するための実務上のポイント、さらには契約書の見直し時に確認すべき必須項目まで、物流担当者や経営者が知っておくべき知識を網羅しました。企業の信頼を守り、安定した取引を継続するために、ぜひ貴社の契約実務にお役立てください。

1. 契約書の不備が招く重大な損失とは?運送業務における法的リスクの洗い出し

物流業界において、トラックチャーター(貸切便)の手配は日常的に行われていますが、いまだに電話一本や簡単なメールのみで済ませる「口頭契約」に近い商慣習が残っています。しかし、正式な運送委託契約書を取り交わさない、あるいは記載内容が不十分な状態で業務を開始することは、企業の経営基盤を揺るがす重大な損失につながりかねません。

まず直面する最大のリスクは、貨物事故や遅延が発生した際の「損害賠償責任の所在」が不明確になることです。例えば、積み込みや荷降ろしの作業中に商品が破損した場合、契約書に「荷役作業はどちらの責任で行うか」という責任分界点が明記されていなければ、荷主側の梱包不備か、ドライバーの過失かで水掛け論となり、解決が長期化します。責任範囲があいまいなままでは、保険の適用がスムーズにいかないケースも多く、結果として予期せぬ損害額を自社で負担することになりかねません。

次に注意すべきは、待機時間や附帯作業に関する費用トラブルです。国土交通省が定めた標準運送約款では、所定の時間を超える待機や、契約に含まれない積込・取卸料は追加料金の対象となります。しかし、事前の取り決めでこれらが明確化されていないと、後から高額な追加請求が発生して紛争になったり、逆に運送会社側が正当な対価を得られず配送品質が低下したりする恐れがあります。

また、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の観点からも、契約書の不備は致命的です。資本金規模によっては、発注時の書面交付義務(3条書面)に違反しているとみなされ、公正取引委員会からの勧告や指導の対象となるリスクがあります。コンプライアンスが厳しく問われる現代において、トラックチャーター契約は単なる車両の手配手続きではなく、法的リスクマネジメントの最前線であると認識する必要があります。

2. 責任範囲の曖昧さや下請法違反を防ぐために知っておくべき、実務上の落とし穴と事例

トラックチャーター契約(貸切輸送)において、最もトラブルに発展しやすいのが「業務範囲の認識相違」と「下請法違反」です。荷主と運送事業者の間で交わされる契約内容が曖昧なままだと、事故や遅延が発生した際の損害賠償責任の所在が不明確になり、経営を揺るがす大きなリスクとなります。ここでは、実務担当者が特に注意すべき落とし穴と、実際に起こり得る事例について解説します。

まず、責任範囲の曖昧さに関して最も多いのが、積み込み・荷下ろしなどの「付帯作業」に関する取り決めです。標準貨物自動車運送約款では、運送と付帯作業は区別されていますが、実務の現場では「ドライバーがやって当たり前」という慣習が根強く残っているケースが見受けられます。例えば、契約書には「輸送業務」としか記載がないにもかかわらず、現場で棚入れや検品作業を強要され、その最中に荷物を破損させてしまった場合、どちらが責任を負うのかで紛争になります。また、こうした付帯作業や荷待ち時間が長時間に及んだ場合の追加料金が支払われないことは、運送事業者の収益を圧迫するだけでなく、場合によっては下請法や独占禁止法上の問題(優越的地位の濫用)に発展します。

次に、下請法(下請代金支払遅延等防止法)の観点です。物流業界では多重下請け構造が一般的であるため、自社が発注側(親事業者)になる場合もあれば、受注側(下請事業者)になる場合もあります。ここで見落としがちなのが、「3条書面の交付義務」です。発注時に、給付の内容、下請代金の額、支払期日などを記載した書面を直ちに交付しなければなりませんが、電話一本やメッセージアプリだけでトラックを手配してしまうケースは後を絶ちません。これは形式的なミスではなく、明確な法律違反として公正取引委員会や中小企業庁の指導対象となります。

具体的な事例を見てみましょう。ある製造業者が物流会社へ製品輸送をチャーター依頼した際、燃料価格が高騰しているにもかかわらず、従来の運賃価格を据え置き、協議に応じないまま発注を続けました。これは下請法における「買いたたき」に該当する可能性が高い事例です。また、別のケースでは、配送センターでの荷待ち時間が2時間を超えたにもかかわらず、待機料金を支払わなかった事例もあります。国土交通省は「トラックGメン」を創設し、こうした不適正な取引の監視を強化しています。違反が悪質な場合、社名が公表される勧告措置を受けるリスクもあり、企業の社会的信用を大きく損なうことになります。

このようなリスクを回避するためには、契約締結時に責任分界点を明確にした契約書または覚書を取り交わすことが不可欠です。特に、貨物の引き渡し場所(車上渡しなのか、軒先渡しなのか)、積み降ろし作業の有無と費用負担、待機時間発生時のルールについては詳細に明記する必要があります。法的リスクを正しく理解し、透明性の高い契約運用を行うことが、安定した物流体制の構築につながります。

3. トラブルを未然に回避し企業の信頼を守る、契約書作成・見直し時の必須チェックポイント

運送業務を委託する際、口頭での発注や長年使い回している古い雛形の契約書で済ませていないでしょうか。トラックチャーター(貸切便)契約において、契約内容の不備は、貨物事故や料金トラブルが発生した際に企業経営を揺るがす大きなリスクとなります。特に昨今では、コンプライアンス遵守が厳しく求められており、公正取引委員会や国土交通省も運送取引の適正化に向けた監視を強めています。

トラブルを未然に防ぎ、荷主企業と運送事業者の双方が対等かつ良好な関係を築くために、契約書の新規作成や更新時に必ず確認すべきチェックポイントを解説します。

業務範囲と附帯作業の明確化**
最もトラブルになりやすいのが「どこまでが運送会社の業務か」という線引きです。単に「A地点からB地点への輸送」と記載するだけでは不十分です。積込や取卸し、検品、棚入れ、ラベル貼りといった附帯作業(荷役作業)が発生する場合、それが契約に含まれているのか、あるいは別料金なのかを明記する必要があります。標準貨物自動車運送約款では、運送と附帯業務は区別されています。これらが曖昧なままだと、ドライバーの長時間労働を助長するだけでなく、作業中の事故における責任の所在が不明確になります。

運賃・料金設定とサーチャージ条項**
運賃は距離や時間制で決められることが一般的ですが、見落としがちなのが「待機時間料」と「燃料サーチャージ」の取り扱いです。荷待ち時間が発生した場合の追加料金について取り決めがないと、運送事業者はコストを回収できず、後に不当な取引として問題化する可能性があります。また、燃料価格の変動リスクをどちらが負担するのか、基準となる価格や調整のタイミングを契約書に盛り込むことで、経済情勢の変化にも柔軟に対応できる強固な契約となります。

損害賠償責任の範囲と上限**
貨物の破損、紛失、遅延が発生した際の賠償責任についても詳細な規定が不可欠です。全額賠償とするのか、運賃を基準とした限度額を設けるのか、あるいは運送賠償責任保険の範囲内とするのかを定めます。特に高額な精密機器や生鮮食品などを扱う場合は、通常の約款ではカバーしきれないケースがあるため、特約条項で補償範囲を明確にしておくことが、双方のリスク管理につながります。

再委託(下請け)に関する規定**
チャーターした運送会社が、さらに別の事業者に運送を委託する「再委託(利用運送)」を認めるかどうかも重要なポイントです。再委託を認める場合は、元請けとなる運送会社が責任を持って実運送会社の管理監督を行う旨を条項に加え、品質担保を図る必要があります。知らない間に質の低い事業者に再委託され、事故やブランド毀損につながる事態を防ぐためにも、事前の承諾を必須とする条項を入れることが一般的です。

契約書は単なる形式的な書類ではなく、トラブル発生時の解決指針であり、企業を守る盾です。法令改正や物流環境の変化に合わせて定期的に見直しを行い、実態に即した内容にアップデートし続けることが、企業の社会的信用を守ることにつながります。